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コラム

ひできにいちゃん、について。

親戚に、「ひできにいちゃん」というおじさんがいます。

典型的、といっては大変失礼だけど、
典型的な、田舎の人の良いおじさんで、60歳をとっくに過ぎているのに、
いつまでも「にいちゃん」と呼ばれています。

母方の家の本家を継いでいる人物です。

お盆に仏壇をお参りに行ったら、
ひできにいちゃんは
赤と青と黄色に着色した竹の筒をどこかへ運ぶところでした。

何に使うのか聞いたら、
「墓に飾る」といいます。

竹にいれた切り込みに、
ろうそくを立てて、墓を飾るのだそう。

イルミネーション的な??

「はー??なんしよーん」と、ちょっと笑ったけれど、
ひできにいちゃんは、大真面目。

竹の筒を軽トラに積んで、
田んぼの中の道を駆け抜けて、
墓地へと運んでいきました。

墓は、集落のはずれにあって、
その集落のほとんどの人が
そこに眠っています。

ここで生まれて、
ここに眠る。

そんなことができる人が、
日本に今、どのくらいいるのでしょう。

 

ここに生まれて、
田畑と山を守り、
(時には墓を飾り付け)
ここで、人生を過ごすひできにいちゃん。

私のおじいさんも、
ひいおじいさんも、
そうして生きてきたのです。

近くの神社には、
私の祖父母の名前で奉納した狛犬と
その祖父母の兄夫婦の名前で奉納した鳥居と、
ひいおじいさんの名前が書かれた石碑があります。

最初は、
そんなことして、何になるの?
と思ったけど、
それも、この土地を守った証。
死後のちょっとした贅沢なのです。
帰りに、庭を見ると、
ひできにいちゃんが竹に色を塗るときに、
直に庭に竹を置いてスプレーで色を吹き付けたらしく、
納屋の駐車場に、カラフルな輪っかが残っていました。
新聞くらい敷けばいいのに、と思いましたが、
ひできにいちゃんが、竹に色を塗っている姿が思い浮かびました。
先祖がほぼ全員眠るお墓に
みんなが集まるお盆だから、
ひできにいちゃんは、飾り付けをするのです。
ちょっとヘンなアプローチですけど、
彼流のおもてなしです。

すごい見栄えがいいとか、そういうことは大事ではないのです。

先祖も含めてみんなを喜ばせたいから、しているのです。
私は、海の向こうに憧れて、田舎を出ていくタイプの人間です。
でも、ひできにいちゃんを見ると、少し我にかえるのです。
地面に足をちゃんとつけないと、転んでしまうよって。

根っこはどこにあるんだい?って。

お盆に我にかえれて、よかったなと思いました。

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