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コラム

【言葉のちからを集めよう#10】古書店店主 村上豪さん 「言葉は作家が生んだおびただしい比喩」

大阪府交野市にある、古書店「(本)ぽんぽんぽん」。地元出身の同店店主・村上豪さんは、〝数千冊の本を読み、本の面白さを伝える伝道師〟と紹介されることもあるのだとか。約20年にわたり、仕事で本と向き合ってきた村上さんが感じる「言葉のちから」とは? この日の取材場所である店内は、ご覧のとおり圧倒される数の本、本、本! 膨大な量の言葉があふれる空間で、お話を聞いてきました。


 

夢をあきらめ、出合った書店員の仕事

「実は若いころは、お笑い芸人を目指していたんです」と村上さん。今から20年以上前、18歳から4年間と、期限を決めての挑戦だったと話す。

ただ、子どものころの話を聞くと、「読書? それほどしてなかったですよ。んー、ハルキ(※ライター註:村上春樹のこと)は好きだったかな」とサラリと言うあたり、現在の仕事へのとっかかりはあったのかもしれない。

芸人への道をあきらめ、見つけたのが、とある〝サブカル系〟書店の求人。当時としては珍しく、店員自らが個性的なポップを書くなどユニークなスタイルが話題で、村上さんも客として訪れた折に「ワクワクするな」と感じていた店だった。無事、採用され、アルバイトから社員となり、本と雑貨を扱う仕事に従事するが、ハードな日々に体調を崩し、ついに退職。その後も、前職の経験をいかし2軒の書店に勤務。このとき、古本を扱う経験をし、本の買い取りなどを学んたという。

「(本)ぽんぽんぽん」では、古本のほか、雑貨なども買い取り、販売する

「ちょうど、そのころ〝第一次独立古本屋さんブーム〟のような盛り上がりがありました。僕と同年代の人ががんばっている姿をみて、『こういうふうにできるんや』と刺激を受けて、ここへ向かったのかなと思います」と村上さん。子育てや体調のことも考慮し、まずは地元でと、2015年にこの店をオープンした。

 

時代が反映されている、古い雑誌に宿るパワー

村上さんの本選びに基準はあるのか—。あくまで商売だから好き嫌いだけではないと前置きしつつ、「今、この言葉が通じるか分かんないですけれど、いわゆるサブカル上がりで、どちらかというとメインストリームでないところに面白いものがあるよ、という思いが無いわけじゃないんです」と、答えてくれた。

「だから雑誌は好きですね。本当に時代がそのまま反映されているから。僕がやっぱり好きやな、っていうのは1970年に創刊されてから50号までの『anan』(マガジンハウス)。いやもう、ほんと、広告もそうだし、書いてあるものといい、写っているモデルといい、良いんです。今見ても、ばかばかしさや、遊びがある」

例えば、60年代、70年代、80年代と、それぞれの空気感が、すごく如実に雑誌にはあらわれている、という。特に当時の最新の情報は、一般的には消費される言葉なのに、長い時を経て、改めてパワーを持つ。これは古書ならではの、言葉のちからといえるはずだ。

 

僕らの引き出しに、オリジナルの言葉はない

「今回、『言葉のちから』というテーマをもらってから、ずっと考えているんですが……」と、取材後半になって村上さんが少し改まったように言い始めた。

「言葉というもの単体で捉えたら、自分の頭の中にある〝言葉の引き出し〟を開いたとき、そこに、オリジナルの言葉なんてないし、どのような文章・作品も、『比喩』ではないかなと思うんですよね。だから、詩であったり、僕の好きな短文であったりを書くのは、その編集のうまさですよね」

確かに、オリジナルかのように見えている作品も、分解すれば、全くのオリジナルではあり得ない。作品というのは、皆が共通でもっているもの=言葉をどう組み合わせるか、の勝負でもある。村上さんはそう言いたいのだろう。

おびただしい作家の比喩がこの空間に満ちているのだな、と思ったら、その迫力に負けてしまいそう……。

「うんうん、コワイ。そして、メジャーな作家というのはだから、すごいんでしょう。表舞台に〝出てくる人〟というのは。でも、僕はちょっと、ひねくれものなんで、そこにまだ出てないというか、名があろうが、なかろうが、面白いものに出合いたい。それも、作家さんのために、とかではなく、単純に自分が面白いから扱いたい……でしょうね」

 

古い情報誌(東京版の「ぴあ」)を手に、「普通に考えたら、こんなん、誰が買います? でも、あったら楽しいやん、っていうのがたまらないんです」と村上さんは笑う

 

「取り扱い注意」な難しさ、日常にあふれる豊かさ

「言葉のちから」とは何だろう? その答えを探すインタビューの途中で、村上さんの口から、「言葉は取り扱い注意だな」という一言がこぼれた。さまざまなジャンルの、多くの言葉に触れてきたからこそ、シンプルに言い切れない難しさ。お客さんの多くは、本と共に、こうした村上さんとの会話も楽しみにしているだろう。読んで、考えて、話して。巡りあった本へ愛情を注ぎ、厚みが増してゆく、古書店。その日常はあふれる言葉のように、とても豊かだ。

(文、撮影・市野亜由美)

村上豪さん プロフィール

1978年生まれ。10年以上、数軒の書店で働いた経験をいかし、2015年10月、大阪府交野市に古書店「(本)ぽんぽんぽん」をオープン。〝ニッチでセンチ おさがり本屋〟をコンセプトとした同店の屋号は、「本の森といった意味の造語を勝手に作り、森の木を本にした、ぽんぽんぽんを平仮名にして」つけたもの。
「(本)ぽんぽんぽん」(交野市私部3-11-9、京阪「交野市」駅から徒歩約3分)、TEL.080-9609-1793 ※2023年1月現在、お店はクローズ中。イベント出店と、買い取りがメイン
http://instagram.com/ponponponpo

【直近の出店情報】
「第9回マチマチ古本通り@京都駅前地下街ポルタ」
日時:2023年 2月10 日(金)~19日(日)午前11時~午後8時(最終日は午後7時まで)
※2月15日(水)は「京都ポルタ」全館休業のため休み
会場:ポルタプラザ(下京区東塩小路町902 ※「京都駅」地下街)
イベントの問い合わせ先:マチマチ書店(TEL.075-841-5650)、https://www.instagram.com/machimachibooks/

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