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コラム

【言葉のちからを集めよう #03】修美社 山下昌毅さん「長く大切にしたい言葉や思い出だからこそ、印刷物にして残す」

まちのお店の広告から写真集まで、幅広い印刷物を生み出している 有限会社 修美社。代表取締役で、三代目の山下昌毅(まさき)さんは、紙の素材やインク、製本技術を掛け合わせ、印刷の可能性を追求しています。これまで印刷された文字をたくさん目にしてきた山下さんにとって、言葉はどのようなものなのでしょうか。


無理難題が「おもしろ印刷」技術を高めた

修美社のロゴマークには「omoshiro print」という文字が描かれている。「おもしろ印刷」。その文字通り、修美社がこれまで手掛けた本やパンフレットを手に取ると、ユニークなデザインが多い。例えば、『TAPESTRY』という本。布のような厚みのある表紙、小口と呼ばれる本の断面には “TAPESTRY” の文字が見える。

これは、ロックバンド「LOSTAGE」の五味岳久さんが、結成20周年を機にこれまでの楽曲の歌詞をまとめた一冊だ。山下さんは五味さんや編集に関わる人たちと「どんな本にしたいのか」を徹底的に話し合い、この本を作り上げた。

 

「『もうちょっと厚い紙にしますか』『色はこのぐらいの青ですか』と確認し、思い描くイメージに近づけていきます。アイデアを出し合いながら一緒に設計する方がワクワクするじゃないですか。紙の材質、インクの色、製本技術の無限にある掛け合わせの中から、お客様の理想に近づけていく。それが難しさであり、面白さですね」

 

そして、どんな難題があったとしても「決して断らない」と決めて注文を受けているのだそう。それが先代から受け継いだ、ものづくりに対する姿勢だ。

 

「父がやってきた仕事を見てると、やっぱり品質の良さが重要なんだと。僕もそこを追い続けたら写真集やアート関連のクオリティの高い仕事をいただけるようになったんです。もちろん失敗もたくさんしましたし、納品できるクオリティを目指して刷り直したことも何度もあります。でも難しい仕事を受けることで、考えて工夫して、経験値が増えていきますから」

 

 

たった1人のために作る一冊もある

相手の希望を汲み取り、クオリティの高い印刷技術を提供している修美社。たくさんの冊数を印刷する企業だけでなく、少量だけ必要な個人からの問い合わせもある。

「最近も、思い出の写真や寄せ書きを本にして友人へプレゼントしたいというオーダーがありました。20人ぐらいの人が1人のためにサプライズで本を贈る。みんなの想いが込められているもので、贈られる人もすごくうれしいだろうなって。ほかにも旦那さんが趣味で描いている絵を画集にしてプレゼントしたいという方もいました」

 

こうした「思い出を残したい」という要望には、オフセット印刷を提案している。

 

「今はデジタル印刷機を使えば安く早く印刷ができますが、まだまだその歴史は浅い。だから、100年後に文字や画像が残るか結果がでていないんです。もしかしたら、全部乾燥してインクが出ちゃうかもしれない。オフセット印刷なら、100年前にも刷ったものが残っているという実績があるので、本当に残したいものはオフセット印刷をおすすめしています」

 

 

難産の末に、生み出した「うららかに。」

2021年には新たな挑戦として、堀川新文化ビルヂング内に印刷工房「昌幸堂」をオープンした。これまで修美社が培ってきた、美しく印刷を仕上げるための技術やノウハウを活かし、オートクチュールの本をつくるための場所だ。職人や装丁家、デザイナーなどものづくりのプロフェッショナルたちと連携し、依頼者の表現したい世界観を一冊の本として表現する。

「この場所を一言で表すとしたら、どんな言葉が似合うだろうということを考えたのですが、いつも言葉を見ているのに、自分の言葉って全然出てこなくて。『一言でぐっとくる言葉は何なのか』『どの言葉がこの場所に似合うのか』と考える日々が続きました」

 

こうして難産の末に山下さんから生み出された言葉は、「うららかに。」ハイエンドなものづくりをしたいという思いから、形が整って美しい様を表す「麗」という言葉を選んだという。

 

「どういう人たちに来てほしいか、どんな仕事をしたいか。思いをめぐらせて、ようやく出てきた言葉です。数多くの言葉に触れていても、自分の思いを表すのはこんなにも苦労するのかと身を持って感じました。大変だったからこそ、この言葉を長く大切にしたいと思います」

 

一言を生み出すことの重みを感じられる山下さんだからこそ、きっと多くの作り手が修美社の扉を叩くのだろう。大切な思い出を残す。作り手の思いを形にする。修美社は今日も「おもしろ印刷」を続ける。

 

(文、撮影・三上由香利)

山下昌毅さん プロフィール

1978年生まれ、京都府京都市出身。2006年、祖父が創業した印刷会社の修美社に入社。印刷物が出来上がるまでの印刷設計や、紙と印刷の可能性を広げるイベント企画、商品企画なども行う。2021年に、堀川新文化ビルヂング内に印刷工房「昌幸堂」をオープン。

 

修美社

https://syubisya.co.jp/

昌幸堂

https://shokodokyoto.com/

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