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コラム「声質を伝えるのもタイポグラファー」 デザイナー/アートディレクター 丸井栄二さん
「読んだ後に、素晴らしい文章だと感じさせられるのが、優れたタイポグラファーなんです」。丸井栄二さんは、デザインの仕事、とりわけ、本の文章をデザインする“組版”の世界で経験を積んできたデザイナー/アートディレクター。現在、京都芸術大学情報デザイン学科准教授として教壇に立ち、タイポグラフィ(活字のデザイン)をはじめ、グラフィックを基礎から教えています。「文字は声です。タイポグラフィは書き手の声質を伝えるもの。女性でも、きゃぴきゃぴした感じなのか、落ち着いた感じなのか。人によって違うでしょう。だったら文字組も違うし、書体も変わるはずです」
例えば、テンポよく読ませたいときは1行の文字数が少なくして、行を短くデザインしたり、ゆっくり読ませたいときは、1行を長めにデザインするのだそう。読みものは、ただ文字が並んでいるのではなく、作者の意図が伝わるようにする工夫が随所にちりばめられているのです。
丸井さんが特に好きなのが“ぶら下がり”。いわゆる禁則コントロールだと言います。「日本独特のものなんです。句読点が行の最後に来てしまった場合は、次の行の頭ではなくて、その行の最後に置いて、はみ出してもいい。もしこれができなかったら、前後を調整して入れたりしないといけなくなる。はみ出しているのに、みんなを助けている。素晴らしいでしょう!」
時折見かけていた、ちょっとはみ出した「、」や「。」。全体を美しく見せ、スムーズに作業するために、柔軟な発想で作られたルールだったとは驚かされます。9月に「店と催し 雨露」で開催する丸井さんの作品展「文字を、語る。」では、そんな“気づき”を与えてくれる作品が展示されます。
見たり、声に出してみたり、考えてみたり。じっくり向き合ってみると、丸井さんの作品から、その文字の声が伝わってきます。
丸井栄二作品展「文字を、語る。」
〈会期〉 2020年9月6日(日)~27日(日)の土・日・祝 13時〜18時
〈会場〉 店と催し 雨露
京都市左京区聖護院山王町18 メタボ岡崎106(株式会社文と編集の杜 内)
〈丸井栄二さんプロフィル〉
アートディレクター/デザイナー
1990 年、京都芸術短期大学(2000年に京都造形芸術大学〈現京都芸術大学〉と統合)専攻科課程修了。10 年のデザイン事務所勤務を経て、2000 年に丸井栄二デザイン室を設立。東京TDC賞2011、2012にて入選。「村上春樹書籍表装展」「アドリアン・フルティガーへのオマージュ展」「日本・ベルギーレターアーツ展(準グランプリ受賞)」に出展。2017年にはグループ展「Typo Craft Helsinki KyoToDay」に参加。期間中、ワークショップの講師を務める。さらに同年、個展「文字と定着」をコミュニティーストアTO SEE(京都)で開催。2018年にはグループ展「TYPE RESET 言葉と文字『 』」の企画・開催も。グラフィックデザイン全般の制作に加え、文字や言葉の可能性を研究・表現するほか、デザインで地元を考える「地元を考える会」を主催し、ワークショップを各地で開くなど、精力的に活動。現在、京都芸術大学情報デザイン学科准教授。
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