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コラム

真夏のビーフシチュー

「書きたいこと」がたくさんあっても、書きたくない、書けないと思うことがある。それは、その「書きたいこと」よりも、「書かないといけないこと」がたくさんあったり、「そんなこと書いて読んだ人の何になる?」とか、冷静になったりするからだ。
でも「書きたいこと」ってのは、1日に何回か頭に浮かぶ。
そのたび、冒頭のようにかき消すのだけど、たまには書いてもいいかもしれないという気になったので、書いてみよう。先に書かなければならないことはあるのだけど。ごめんなさい。

先日大阪で、あるカフェに寄った。そこは仕事をいただている会社の近くにある小さな店で、既に何度か訪れていて、ランチではカレーが美味しかった記憶があった。
私は、食に執着がないけれど、何でもよくはない、というややこしい〝食癖〟の持ち主。決してグルメさんではないが、コンビニ飯でもファミレス飯でもいいときと、そうでもよくないときがある。
夏はそれが特に顕著になる。食欲が急降下してしまうからだ。食べたくない、でもお腹は減る、何か食べたいものはないかな…。よっぽど食べたいものでない限り、食べたくない。でも食べないと倒れそう。でも食欲がない。という変な思考をぐるぐると繰り返すことになる(結果、そうめんとか冷たいうどんとか、ちゅるちゅるしたものに逃れることが多いが、決して食べたかったわけではない)。こういうとき救世主なのが、カレーである。スパイスのきいたおいしい手作り感のあるカレーなら、こんなわがままな夏の私の心を動かしてくれるのだ。

さて、そのカレーが美味しかったカフェに行ってみると、店の前で、店の人が店の写真を撮っていた。「へんなの。自分の店なのに。オープンしたてでもあるまいし」と思いつつ中へ入った。
なんか変だ。前と同じレイアウト、インテリアだけどなんか変。そう、お店の人が違う人なのだ。彼は言った。「今日はビーフシチューしかないのですがいいですか? 1500円なのですが…」と申し訳なさそうに。
正直、「え?」って感じ。心はカレー色だったのに、よりにもよってシチューとは。私の中では正反対。まだ暑い8月の終わりに。しかもなかなかいいお値段。

「は…はい。あぁ…そうですか…。まぁ食べてみます」と、ええ格好をしてしまうあたり、私ってバカ。「1500円と聞いてしり込みした」と思われるのもなぁ、なんて愚かなことを考えたのだ。さらに余計なことに、同じようにカレーを食べようと思って店に入ってきた人が、「1500円、ビーフシチューのみ」と聞いて、どんどん帰ってしまったら、彼がかわいそうだとまで思った。その〝申し訳なさそうな〟表情にそう思った。写真を撮っていたのは、「今日はビーフシチューだよ」ってSNSにのせるのかもしれない。

ランチタイム直前でもあり、店の中は私一人。あぁ、このまま私貸切かもと思いつつ、食事を待つ。前菜にトマトのカッペリーニとサラダが出てきて、「あぁ1500円ってこういうことか」と、ちょっと安心。夏の暑さにトマトの酸味のきいた冷たいパスタが合う。そうだよね。これだよね(ちゅるちゅるだよね)。夏だしさ。みたいな気分。野菜にもこだわっているみたいで、フレッシュで滋味豊かな野菜が瑞々しかった。よしよし、いい感じ。
そして、問題の(?)ビーフシチュー。多分、8月にシチューを食べたのは私の人生で初だ。このシチュー、赤ワインがきいているとメニューに書いてあったのだが、なるほど、赤ワインだ。ビーフの赤ワイン煮と言ってもいいぐらい、赤ワイン。お肉もやわらかいし、ちゃんとしてる味。そうかぁ、1500円やむなしだなぁ。なんて思っていると、続々とOLたちがランチにやってきた。あぁ!帰らないで。1500円だけど、なかなかおいしいの!と、念を送っていると、私の念など関係なく、女子たちは座っていく。なに?みんな知ってるの?今日がビーフシチューのみだってことを?? ひょっとしたら有名なの、この週に1度だけのビーフシチュー店。なんだかうれしくなって、追加のドリンクを注文して、合計1800円になった。アホやな私。

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で、そんなことをなぜ思い出したかと言うと、明日は月曜日だ。だけど、明日は新しい出会いが「予定されていない」。いつものように、事務所に行って仕事をして、取材にも行く。締切もある。それでいいのか私。しかも土日はずっと家で原稿を書いていて、外出さえしていない! こんなことではカレー、いや〝ちゅるちゅる〟ものばかりを食べた夏の日を繰り返すばかりだ。そう思うと、急につまらなくなった。なんの出会いもない、土日にさらに月曜日。いや、それだって十分幸せだ。だけど、つまらない。しかもこの気持ち、先週末にもよぎらなかったか???
夏にもビーフシューを食べてみなくてはならない。予定なんか知るもんかーと暴れてみよう。貪欲に新しい出会いを探して動き回ろう。無理やりにでも探そう。そうしないと、なんだか人生があっという間に終わっちゃう、そんな気がする。
こんな気分になるのは、日曜日の夕方だかならのかもしれない。書いてみて、なんて独りよがり!とやっぱり思った。でも、このコーナーはそういうコーナーだからいいか。読んでくれた方、長文にお付き合い感謝。さて、原稿に戻るとします。シクシク(ノД`)・゜・。