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コラム

京都桜日記2016  その2の後半

鴨川を離れ、インクラインへ行こうと思う。

今朝、京都に来るときに蹴上を通ったら、朝日を浴びた桜がそれはそれはきれいで。
早朝からこれまた結婚写真を撮る人たちが、ベストスポットで順番待ちをしていて、ドレス姿の人がインクラインのレールに腰かけて待っていた。

出町柳からインクラインへはタクシーを使った。
御池から今出川まで上がって疲れていたし、途中気に入っているカフェによってひと休みしていこう。
だが、なんとお店は休み。こんな繁忙期に休むなんて!
そのマイペースっぷりにあきれて愚痴っていたら、タクシーの運転手さんが南禅寺付近にある別荘の枝垂れ桜を知る人ぞ知る「隠れ名所」として通ってくれるという。
「じゃあお願いします」

南禅寺のあたりを歩いていると、延々と塀が続いている。
中にすごそうなお屋敷がある、ような気がする。
いや、実際ある、らしい。
ほとんど公開はされていないが、著名人や資産家の別荘がたくさん建てられていて、今は企業の所有になっていたりとかする。
そのうちの一軒、敷地内の枝垂れ桜が通りからきれいに見えるのだそう。

細い道をすり抜けたタクシーがその場所へたどり着くと、確かに素晴らしい。
濃い紅色の枝垂れ桜が、塀の内側で咲いていて、塀の外側までそのオーラをあふれさせている。
別荘の純和風な雰囲気も桜に合う。ここに●カコ―●の自販機とか、●●お断りとかの貼り紙ががなくて本当によかった。
だが、タクシーの運転手さんの言う、「隠れスポット」ではもはやなかったようで、ここも桜見物の人でいっぱい。
「今はインターネットやらあるからね。すぐに広まってしまうわ」と、残念そう。
広まってしまったのは残念といえば残念だが、広がる端緒を作ったのは運転手さんのような人だね。
素敵なことを知っていたら、人に教えたくなる、それも致し方ないことなのだ。

この桜を塀の内側から見る贅沢な花見を想像すると、この桜の価値がぐんと上がった。
中の庭はどうなっているんだろう。
どうしても入れない塀の中への憧れが、優美な紅色の誘惑にかき立てられる。
ありがとう運転手さん。

運転手さんが隠れ名所を見せたがったせいで、インクラインへ行くには、道を戻らなくてはならない。それはばかばかしいと、南禅寺前でタクシーをおりた。南禅寺を歩いて通り抜けてインクラインへむかおう。

南禅寺の水路閣へあがって、疏水沿いにちょっとした山の中の道を進む。
右手には木と木の間から京都市内を見渡すことができた。
2時間ドラマの撮影なんかで使われていそうな場所。
犯人っぽい人を、疑っているなぎさちゃんが問い詰める、
でも、思わせぶりな態度を取りながらうまくかわす。
最終的に犯人ではなかったみたいな、軽いフェイントのシーンをこれまた一人妄想した。

山側から行くと、琵琶湖疏水から出ているのだろう、太いパイプがまっすぐ動物園のほうへ下っている。
その脇に咲いているのはソメイヨシノだろうか。やや山桜の雰囲気もして、野性味があり、そのパイプの無機質さと相まって、なんだか気高く、荒々しさも感じた。

コノヤマノナカデ、マイトシサイテイルンダって。
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さて、インクラインに出てしまえば、
桜、桜、桜と、同じくらい、いやそれ以上に人、人、人。

特にアジア系の観光客に人気なのか、多くの人がインクラインのレールにまたがって「桜+人」の写真を撮っていた。流行っているのだろうか。
運転手さんの言うように、インターネットの時代ですからね。誰かがやったのが広まっているのかもね。着物を着ている人も、桜に負けずきれい。

とにかく人が多いので、ここでレジャーシートを敷いて花見ってわけにはいかない。
ゆっくりと桜を見ながら、インクラインの緩やかな傾斜を下りる。

レールの両側に咲く桜が、トンネルのようになって、桜(と人)だけの世界に浸れるのがこの場所のいいところではないかと思う。
とはいえ本当に桜に包まれる感じに浸りかったら、早朝に来るしかないけれども。

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