column
コラムオープン!オープンデイ特別企画◆デザインとコミュニケーション 小川晋平さんインタビュー
世の中の全てのものに、つくった人がいて、考えた人がいる。機能を、形を、そしてそれらを伝える術を。今あなたが手にしているスマホにも、そして私がキーボードをたたいているこのノートパソコンにも。どんな些細なものも、単なる物体であるだけではなく、そこにはさまざまな分野の“デザイン”があり、デザインには想いがある。そういうことを考えてみると、身の回りのものを見る目が変わるかもしれません。そのヒントになればと、「オープン!オープンデイ」にも作品展示をしていただいた「デザインとコミュニケーション」から、小川晋平さんにお話を伺いました。デザインはもとより、いわゆる“ブランディング”に関わる仕事も多く手掛けられ、全体を俯瞰で見る立場になることも。小川さんが考える、クリエイションとは。そしてつくり手の想いとは―。(文・ちくしともみ)
“と”に込めた、世の中とのつながり
「何かを世に送り出したい」というとき、「何から始めよう」と相談するのに、うってつけの人が、小川晋平さんだ。
京都出身。金沢美術工芸大学で工芸デザインを学び、ソニーグループに入社。CM、VP、映像の企画・演出・制作、グラフィックデザインに携わったのち、イベントプロモーションやショールームのディレクションなども担当。ものを売るのに必要なデザインワークの経験を重ね、2011年に独立した。しばらく東京で活動をしてから、京都に「デザインとコミュニケーション」という事務所を開設したのは2017年のことだ。
デザイン“と”というのがポイントだろう。
「デザイナーとして独立したわけではなかった。デザインを核にしていろいろなことをする、そして世の中とつながって足跡を残したい、そういう思いから辿り着いた名前です」
仕事は幅広い。デザイナーとして、ロゴやパッケージ、空間、プロダクトとさまざまなもののデザインをすることもあれば、ディレクターやプロデューサーとして全体の方向を導く役割を担うことも。いや、むしろそちらの仕事の方が多いのかもしれない。何かを売るには、その商品やブランドのコンセプトを多くの人に伝えることが必要だ。そのために必要なことは何でもする。ちょっと説明が乱暴かもしれないが、その表現が一番合うような気がする。小川さん自身が自分をデザイナーとしての枠に留めておくことも、ほかの何かの枠で縛ることもしていないのだから。
どうやって伝えるかもデザインの一部
ホームページに掲載されているこれまでの実績を見ると、ワールドショコラ世界4位のパティシエ垣本氏による京都のチョコレートショップ「ASSEMBLAGES KAKIMOTO」、伊勢神宮参道の豆腐店「豆腐庵山中」、名古屋の家具メーカーなど、活動の場所は日本各地。なかでも、苦戦したのは?と、聞いてみた。
「金沢の寝具店のロゴマーク。まだ京都に事務所を構える前でした。デザインコンペだったのですが、商品の具体的な情報があまりなくて……。一度マックから離れてみよう!と、鉛筆で書いたり、筆で書いたり、割りばしで書いたり、イモ判作ったり。それでもなかなかうまくいかない。そんなとき、家で布団にもぐって子どもがゴソゴソ遊んでいるのが、ふと目に入って、その寝具店の持つ人を幸せにするイメージや温かみと重なりました。その形をロゴマークにしたのがこれです」
見せてくれたのは、やわらかな線で描かれたモコモコっとした円のなかに書かれたショップ名「gamadan」の文字。言われてみると、文字は、子どもが体を丸めているようにも見えてくる。
小川さんのデザインが7社競合の中から選ばれた。このほか10案ほどを厚紙に書いて、包装紙に包み、麻ひもで縛ってクライアントに提案した。温かみのあるデザインを、温かく提案する。“どう伝えるか”。そこまでが、いわばデザインなのだ。
じっくり向き合って、設計図をつくることに時間をかける
デザインコンペのような場合には、情報や時間は限られるが、仕事を行う上で大切にしているのは、“話すこと”。デザイン提案までにかなりの時間をかける。
「何度もディスカッションをして、考え方を固めていくんです。例えば、オーナーが今までにないお菓子を作りたい、売りたいと言ったとします。じゃあそれは何なのかということ。“今までにない”とは、何なのか。その店の強み? コンセプト? 意外と言葉にできないことが多いんです。それを一緒にクリアにして、商品やブランドの設計図をつくっていきます。だけど、僕が決めるんじゃないんです。決めるのは、オーナー自身。改めてじっくり向き合って考えてみると、ぼんやりしていたことがはっきり言葉にできるようになります。その作業に時間をかけています」
最近では、最初の打ち合わせのあと、何度も顔を合わせて話をしながらも、デザインを提案したのは、なんと3か月後だったとか。依頼する企業やオーナーとの信頼関係がないとできないことだ。
「ブランディング設計、パッケージ、空間。お話を聞きながら同時に考えています。ですが提案は、方向性を固めきれてから。そこまでやるからこそ、これで間違いないという提案が自信を持ってできます」
ヒントは全て相手の中にある
「クリエイションのアイデアは僕の中にあるのではなくて、全部相手の中にある。僕は、ゼロから生み出すのではなくて、お客さんの中にある、お客さんも気づいていない事柄を見つけて、光を当てる役割。お客さんからみるとただの石に見えても、それが宝石の原石だったりもする。それを『すごいものを持っているじゃないですか』と伝えて、良さに気づいてもらうことで、自分の商品に自信を持ってもらうことができる。僕はそこをヒントにしてデザインやプロデュースをしていくんです」
成功の確率を高めるのは、チームビルディング
空間全体をプロデュースした事例としては、2019年12月に京都・四条河原町にオープンした「Good Nature Station」の3階フロアがある。宿泊施設、レストラン、オーガニック食品の販売などを行う複合施設で、小川さんが担当した3階には、カフェ、コスメやスキンケア商品の販売、クラフト商品の販売、美容施設が入ることが決まっていた。
「商品はある程度決まっていましたが、フロアコンセプト、ゾーニング、レイアウト、すべてを任せてもらいました」
大がかりな施設では、関係する人の数も膨大になる。前述の「話をする」人たちも多くなる。そうなればなるほど、“チームビルディング”が大切だと言う。
「僕が決めて、僕がつくるんじゃなく、みんなで考えてやり方を決める。僕はみんなの気持ちを繋げる役目。全員のポテンシャルを高めて、力を最大限に生かす。全員にとって“自分事”になることで、成功の確率が上がると思っています。何度もディスカッションを重ねていくと、だんだんとみんなの顔つきが変わって、チームとして取り組めるようになるんです。チームが楽しそうに仕事を進めていくのを見るのが、仕事をしていて一番うれしいことです」
デザインとコミュニケーション。その名前にすべてあらわれているのかもしれない。目に見えるもの、触れることができることはほんの一部。そのデザインの下には、重ねてきたコミュニケーションの層が、しっかりとした土台をつくってくれているのだ。
デザインとコミュニケーション http://www.design-communication.jp/