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コラム

福岡に行ったから

せっかく福岡に帰るのだから、家に行く以外にも何かすることにしよう、と思い立った。
もう福岡を出て16年になる。私が大学生のときは絶賛工事中で、大渋滞を毎朝引き起こしていた地下鉄が我が母校の先まで通り、都市高速もこれまた我が母校のあたりを通過して環状線となった。博多駅だって全然違う。そんなにすさまじく交通が整備されたのだから、街のこざこざした通りの店なんかは言うまでもない。私の知っている福岡はどこへ行ったのか…。ならば探してみようと、歩くことにした。
まずは、昼ご飯を食べる。場所は何度か家族で訪れた「稚加栄(ちかえ)」という料亭。
昼に料亭で、1人でご飯? と心配する必要はない。博多の人はそんなこと心配しなくていい。そんな気取ったことではないのが、この町のいいところ。
店の真ん中にはプールみたいな大きないけすがあって、アマダイ、アワビ、ヒラメ、みたこともないでっかい(1mくらいあったような)魚も。アジが銀色にキラキラ光ってキレイとか、イセエビが逃げ出しそうとか。見ているだけで十分楽しい。
このいけすを囲んでカウンターがあり、私のような1人客や2人連れが座っている。まるで輪になって。仲居さんたちはプールサイドみたいないけすサイドを行ったり来たり。転んで落ちたりしないのかな?と若干心配になる造りだ。
お昼の定食は刺身、天ぷら、カニでダシをとった味噌汁、茶わん蒸し、煮物、ごはん(もちろん明太子は食べ放題)、漬物(もちろん高菜入り)で、税込み1400円。これはかなりお得だ。とうてい食べきれない量だし、目の前の魚が刺身になったのだから。他県から来た観光客のような顔をしてご満悦。
ここに初めて来たのは、多分中学生のときだったと思う。もちろん家族できた。そして座敷があいていなくてカウンターに座った。当時も同じ値段だったかは分からないけど、「料亭は高級」と思っていたから、すごいところに来たぞ!と興奮したのを覚えている。値段も遠慮しながら、そこそこ安いのを選んだり、子どもながら気を使っただろう。ところが、隣に座った中学生くらいの男の子が、フグ刺しを食べ始めた。
は?フグ刺し。この子ども、近所の地主の息子じゃないかとか、山奥から出てきた私たち家族は、そんなことを言いながら帰路についた。そうじゃないと、説明がつかないじゃないかと。料理の味よりも、目の前の水族館みたいないけすよりも衝撃的だった。しつこいようだが、山奥から出てきて、すごい御馳走にありついたと思った私を凍り付かせた。ちらちらとその子が食べるフグ刺しを見ながら、なぜ子どもなのに、フグ刺しを食べられるのか?についてずっと考えていた。世の中にはお金持ちがいるんだと、なんだかがっかりした。その中学生には全く罪はないけれど。今考えたら単なるジェラシー、ひがみでしかない。

今日は1人だったので、あのときの中学生がどこかにいるのでは?と探しながら食べた。いるわけないか、と思いながらも。そして、私だって1人でここでご飯を食べてやるんだと、リベンジを果たした気分になった。食べたのはお得な昼定食だが、いいのだ。
そして今、とあるカフェでこれを書いている。16年前にあったとしても入れなかったおしゃれな店で、800円もするレモンソーダを飲んでいる。大人になったもんだ。そうしたらテーブルにこの店の3号店オープンのお知らせがおいてあった。
筑豊の炭鉱王、伊藤伝右衛門の旧別邸だったたてものを使った店なのだという。私の小学校の体育館を建ててくれた人ではないか! あぁ、ここは故郷。多少?変わってしまったとしてもこの街が大好きだ。

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