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コラム

ニューヨーク一週間。音楽を聴く。

ニューヨークへは、友人を訪ねてきたのですが、そのほかには何の予定も決めておらず、自由の女神ぐらいは見なさいよ、と夫にいわれたものの、まだ見ていないという滞在1週間。

で、何をしているかと言うと、音楽を聴いています。
その訪問した友人というのが、ジャズシンガーである深尾多恵子さんということも大きいのですが、話を聞いていて、そんなに惹かれたニューヨークの音楽とは?と興味がわいてきました。

まず聴いたのは、もちろんジャズ。10月6日、深尾さんがニューヨークでも指折りのジャズクラブ「birdland」のステージに立ちました。場所はタイムズスクエアのすぐ近く。ミッドタウンのど真ん中です。ニューヨークはジャズの本場、だとしたらたくさんのジャズクラブがあるのだろうと思っていたのですが、深尾さんによると、ちゃんとジャズクラブと呼んでいいレベルなのは10~15軒。あとは、ジャズが聴ける店が多々あるという状態。「birdland」はれっきとしたジャズクラブです。そこに日本人の、しかもシンガーが出る。母国語が英語でない人間が歌うのは非常に大変なことです。
そのライブを仕切る人間が、メンバーの選定、依頼、ギャラの支払い、広告、そのうえ、曲選び、打ち合わせ、メンバーへの連絡、そして当日の自分の準備…。「歌う」以外にもこんなにすることがあるとは! パワーがないとやっていけないビジネスです。
そしてライブはもちろん大盛況。ステージを囲むように客席が階段状に並び、お酒を飲みながら、少しご飯を食べながら、みんな真剣に聴いています。それも吟味するように。視線が痛いぐらいではないかと思うほど。それにこたえるように演奏し、歌う、素敵な一夜でした。ここでは必死で写真撮影を担当。私がライブに集中できなかったのが心残り。

そして、別日に行ったのは、ダウンタウンのジャズクラブ「Mezzrow」。べテランのトランぺッターさんと、ギター、ベースのトリオです。外国人なのではっきりと分かりかねますが、みなさん60歳はこえてるだろうなという風貌。このライブのリーダーはトランぺッターさん。彼はなかなかの有名な人だそうで、たしかに素人耳にもわかるほどの、音の質の良さ、音運びの秀逸さ。歌のない音楽はやや苦手な私でしたが、1時間以上、全く退屈しません。ジャズはその場で創り上げる音楽です。譜面はおいてはあるものの、3人の響きあいが大切。誰かの音に誰かが応えたり、息ぴったりにスパッと終わったり。ステージではトランぺッターさんが前に立っていて、まったくほかの2人を見ていないのに、です。しかも繰り返しますが、音がすごくいいのです。自由で、音符が弾けて飛んできたり、滑り台を滑るように滑らかに降って来たり。そのうえ、演奏者にとても余裕がある。目をつぶって、ほかの人のソロの部分では「おお、いいじゃん。なかなかやるねぇ」と言わんばかりに、ニヤニヤ。あぁ、夢のような演奏でした。

次はゴスペル。タイムズスクエアチャーチで火曜日に行われる「WORLD WIDE PRAYER MEETING」。狙いはゴスペルですが、宗教的な行事です。
まず到着して驚きました。劇場のような造り。ヨーロッパ調の装飾がほどこされたきらびやかな空間の前方にステージがあり、そこから階段状に客席が伸びていて、ちょっとしたホールです(写真が向きが変になっていますが、それが天井です)。係員に促されるままに座ったのは前から2列目の正面。まわりは黒人がやや多め、白人では年配の人が多かったように思います。そのほかちょっと観光できたようなアジア人もちらほら。「中国語の翻訳機が要りますか?」と尋ねられたので、中国人も多いのでしょうね。
さて、幕があがると、いきなりゴスペルです。最初はてっきり説教やお祈りがあって最後にゴスペルかな。寝ちゃわないか心配。と思っていたので、ビックリ&安心しました。しかも、ソロの女性シンガーがいきなり全開で、アップテンポの曲を力強く歌い上げます。寝てるなんて不可能(笑)。コーラスの人々が後ろに30人くらい並んでいて、演奏ももちろん生。舞台のそでにピアノ、ドラムなどなどがいます。あまりの迫力に感動して泣いてしまいました。こんな目の前で、あんなふうに迫力ある歌を歌う人、初めて見た…としばし呆然。そうして私の背中にどっと押し寄せる歌声。参加者が全員、大声で歌って、躍ってしているのです。気合を入れてこないとのまれます。
ここタイムズスクエアチャーチがいいのは、火曜日にもあること(通常は日曜日の午前中しかないところが多い)、アクセスがいいこと、そして歌詞がスクリーンに出ること。初めて聞いた歌でも、繰り返しが多いので、スクリーンを見ながら一緒に歌うことができます。もちろん私も混ざって熱唱。あまりにいい歌だったのでCDがあったら買いたいなと思ったぐらい。
2曲ゴスペルがあって、1人目の説教が始まりました。この人も全然、教会というイメージと違います。格闘技のパフォーマンスかと思うような、叫び系。内容は神様の話しなのですけどね。ほかにも2人説教をした人がいましたが、この人よりは普通。でもプレゼン力がすごい。日本でいうと、なんだろう…。頭のいい司会者か、演説のうまい人でしょうか。そして説教のあとで、お祈り。こうしてゴスペル→説教→お祈りを何度か繰り返します。
後半のお祈りタイムではみんなで手をつないで各々の祈りを捧げるのですが、号泣している人が多々。さっきまでみんな楽しそうに歌って、躍ってしてたのに…。何かつらいことがあるんだろうな…と私まで号泣。変な日本人です(すっかりのまれてる)。泣くのも一緒、歌うのも一緒、躍るのも一緒ってわけで、妙な一体感を得て、帰路につきました。
*ネットでも見れますが、その場にいる迫力はこんなもんではありません。すさまじかったです。

まだまだ音楽三昧は続きます。備忘録的にもう1つ。続いてはダウンタウンの別のジャズクラブ「Smalls」。ここはハコも小さめですが、お店の前に立っているおじさんが小柄。だからこの名前なのかな、とか思いつつ。今晩はサックスが3人、ベース(日本人!)とドラム。彼らはまだ「若手」で、勢いがある演奏をするよ、と深尾さんに教えてもらったライブでした。なるほど、ライブの最初は息がいまいちあってない?ような気もしたり。でももちろん全体としては整っています。同じ楽器が3人って面白い。合わせてふくときも、ソロでふくときも。ちょっとずつ個性が垣間見れるのです。3人のうち、この人の演奏がいいなと思ったり。こうやってごひいきを増やしていくのでしょうね。
1時間ほど過ぎたら、ちょっと休憩があって、secondsetが始まりました。そうしたら「あなたたち休憩の間に反省会でも開いたの?」って感じに、いきいきとした演奏に。サックスのハリのある音が、せまいライブハウスにビシビシ響きます。お客さんも「おお!いいぞ!」って具合に盛り上げます。
あぁ、楽しくなってきた!というところで、実は時間切れ。あまり1人で遅い時間にウロウロするわけにもいかず。心の門限が来たのでした。後ろ髪をひかれつつ、よし、明日はあそこに行ってみようかな。この前ソールドアウトで入れなかったあそこへ行くぞ…と計画を練るのでした。自由の女神はいつになることやら。

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