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コラム

人にあったらハローと言いなさい。旅の理由

さらりといつも通りに仕事をしていると、ニューヨークに行っていたときのことがウソのように、毎日普通にすぎていくのだけど、それでいい。帰ってきたら、京都は秋になっていた。

私は年に2度、海外に行きたい。そんなに大金持ちでもないのに、なんと贅沢な、と思う。でも、このまま行かずに人生を終えるぐらいなら、あちこち行っておこうと思う。旅に出たい。…のはなぜか、を今日は書いてみる。

最初は、単なるタイミングで出かけただけだった。私が仕事を変えて、正社員でなくなったころに、妹が転職をして、1ヶ月ほど時間が空いた。そんな空き時間、なかなかないね、なら旅行にでも行ってみようか。思えばそれが、大人になって、純粋に海外旅行に行こうと思った最初だった。(その前に2カ所ほど行っているが、それは、勉強や仕事の延長線上のもの)。
行き先はロンドン。理由は英語が通じるから。私は何しろ英文科中退。英語なら少しはいけるかも…という気持ちがあった。ホテルと飛行機のチケットだけを取って、姉妹で個人旅行に出かけた。ところが、行ってみると全然。ぜんぜん通じない。だけど、果敢に「Excuse me」を連発して、ミュージカルのチケットを買ったり、2階建てバスに乗ったり。途中で「思ったより英語が通じない姉」に妹が腹を立てたりして、案の定、険悪なムードになりつつも、私はゼスチャー英語を満喫。通じない英語でアタックすることが楽しくなってしまった。「通じた!」とか、「やっぱダメだった」とか。そんな遊びに夢中になって、自力でやり遂げると、ちょっとしたことが驚くほど楽しい。

その後そのゲームのパートナーは夫に変更された。夫も同じことを楽しいと思ってくれている(と思う)ようで、サンフランシスコ、シアトル、イタリア、タイ、ベトナム、台湾、香港……。とにかくいろんな所へ繰り出して、夫婦して自分試しを始めた。バスに乗れずに延々歩くとか、乗ったはいいけど、おりるところが分からないとか。希望のものが注文できないとか、しょっちゅう。
だけど、「あぁ、私って全然ダメ!」っていう絶望的な気持ちや「こんなこともできなかったら(言えなかったら)子ども以下!」っていう無力感がたまならくいい。言葉が通じないだけではない。考え方、歴史、文化、何もかもがが違う。それらに出合って、その場所の人と出会って理解して、ビックリする。自分の常識とか知識とかが、一気にまっさらになって、別の世界に触れることができる。ヘン…かもしれないけど、なにこれ!ウソ!信じられない!みたいな気持ちがなんだか心地いい。
多分この気持ち、日本にいたら、自分のテリトリーの中にいたら、感じられないからだ。下手したら、何でも思い通りにできる気になって、カツカツヒールのかかとを鳴らして偉そうに歩いている。うまくいかなかったら、すぐに怒ったりもする。そんな自分の首根っこをグッとつかんでグググーと引き戻されて、「はい、やり直し」って言われているような、大きなダメ出しが、私にとっての旅。

ニューヨークはそういう意味ではとっても魅力的な場所だった。

洗礼は最初に来た。最初、というか、いわば国境上にあった。

今回は半分1人旅。空港について入国審査の列に1人で並んだ。前の人が済んでも呼ばれなかったので、「次、いいですか~」ってな感じで審査官の前にでた。

審査官は太った中年の黒人女性だった。スタバのあまそうなフラペチーノをデスクの上においてるのが目に入った。

彼女は最初に私にきいた。Can you speak English?…Yes.と自信なさそうに答える私。思えばここで、私はすでに、完璧に負けていた。

You should say hello, When you see someone.

きょとん、とした私に、その入国審査官は、さらに早口でまくしたてた。「何日いるの?」「どこにとまるの?」。ビビってるから、聞き逃して「は? I’m sorry,What?」とか言おうもんなら、「WHEN!」とか「WHERE???」とか。怖い顔して言う。だんだん腹が立ってきた。まさに、こんにゃろって思った。けど、言い返せなかった。言い返すほどの語学力がないし、ここはアメリカ。アメリカのマナーに従う。

もちろん、それ以後私は「Hello」をいうのを忘れなかった。なんだか吹っ切れた。レジに並んで順番が来たとき、お店に入って店員さんにあったとき。「あーhelloっていうのがそんなにも大事なのね~」って。ほんと基本中の基本。場合によっては「How are you」までがセットだ。レジぐらいでは言わないけど、店に入ったら店員さんに言われる。ちょっとしか会わない人にはいわなけど、もうちょっと話しそうな人には言う。というあんばいか。思ったよりいろんな人に言う。中学生英語、こうやって使うんだなと実感。ロンドンでこんなに「How are you」言ったっけな??

そして帰国後、京都は秋の観光シーズン。私がドリンクバー目当てで原稿を書きに行く、ファミレスも外国人でいっぱいだった。8人ほどの年配の欧米人の団体のオーダーを、英語がそんなに得意でない感じの女の子の店員さんがとっていた。その外国人たちは料理にやけに細かく、「フレンチフライの量はどれくらいか?」「それはこの人とふたりで分けるから、1つでいいんだ」「え?そうなの、私たち分けるの?いやだわ。やっぱり別のにして」だの、ぺらぺらと英語で話した。店員さんは一生懸命応対しているものの、半分はゼスチャーで、自信なさそう。風向きはなぜか店員さんに不利。だんだん弱気になってきた店員さんに、外国人たちは続けて英語で注文の注文をつけていた。「フレンチフライはステーキと一緒に持ってきて」「肉の焼き加減はよく焼いてくれ」。こらっ!ここは日本だぞ!店員さん!負けるな!がんばれ! 英語が話せるに越したことはないけど、ここは日本なんだー! それになんでもうまくいったら面白くないぞ。欧米人。楽しもうよ、外国を。

と、その場で、英語でユーモアたっぷりに…言えたらすてきなのだけど、私はまだまだ若輩者。心のなかで店員さんを応援したにとどまった。でも必ずや、カツカツって音を立てながら、世界中を歩くんだ。

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