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コラム

書家・奥田美穂さん 「〝こう書こう〟と思うのではなく、自然を連れて来るように」

瀬田川沿いに走らせていた車が、いつしか山の緑に包まれた。ここでは、時折見える看板のほうが完全に違和感を放っていて、家々は地形を崩して建てるのではなく、その形状に寄り添うように立つ。そのうちの一軒の古い民家が、書家・奥田美穂さんのアトリエだ。陶芸家と共同で使っているあたりが、いかにも信楽らしい。窓から見える風景が京都の街中と違うのは、山とアトリエの間に人工物が少ないということ。信楽の自然に見守られて、筆をとり、文字を書く。奥田さんの強くて、やわらかな字には、この環境が欠かせない。

書との出会いは、小学校3年生のとき。祖父が習字の先生をしていて、自分で行きたいといったのか、親に言われていったのか、なんとなく習うようになった。
「いわゆる〝お習字〟。お手本を見て、その通りに書きましょうというもの。正解がそこにあって、そのゴールを目指すんです」。そんな〝お習字〟は、大切なことだとは思う。だけど、ちょっとだけ窮屈に感じていた。

「ほかの向き合い方はないか…」。そう模索するようになったのは3年ほど前。

「少し時間ができて見まわしてみると、やっぱり自然が大好きだと実感するように。それも花よりも、葉や苔、木の枝に癒される。それで去年ススキを筆にして書いてみたんです。そしたら、絶対思い通りに書けない。だけどこれが、私が目指していたものじゃないかって」

「こう書こう」と思って字を書くではなく、自然にゆだねて書いた字。「そこにある自然を連れて行く」のが、奥田さんが書きたい〝自分の字〟だと気づいた。

能登に行って和紙をすくこともある。紙の中に葉を入れてみたり、出来上がった和紙を木の枝で染めたり。旅に出れば、旅先の自然を連れて来ることができる。いつも身のまわりにあった自然を取り入れることが、奥田さんに自由な表現の楽しさを教えてくれた。

だが、「植物を使う」から自然を連れて行ける…そんなことではない。それは単に気付きだ。

アトリエの床の間では、今朝飾ったと言う、書と小さな花を咲かせた梅が迎えてくれた。
この床の間から連なるように、横の窓には信楽の景色が広がっている。

かけた書は、「之を涵(ひた)すこと海の如し、之を養うこと春の如し」。

学問や教養を身に付けるときは、海のように広い知識にひたって、春の日の光が差してゆっくり草花を育てるように学びましょうという漢詩。ここで静かに筆を持つ奥田さんに重なった。

通常の筆で書く字も、単に美しい字ではなく、奥田さんがどこからか連れてきた景色が込められているはずだ。奥田さんが和紙の上を滑る筆先に見ているのは、この穏やかな信楽の山々じゃないかと、やっぱり思う。

(文・写真 ちくしともみ)

書家・奥田美穂さんワークショップ
「雨露で、書と珈琲を。うつくしい言葉を探して、認(したた)めるひととき」

普段何気なく使っている日本語に意外な意味があったり、言い換えるだけで素敵になったり。漢字で書くのと、平仮名で書くのとでも印象が違うもの。「店と催し 雨露(あまつゆ)」オープンプレイベントの第2回は、書家の奥田美穂さんを迎え、そんな言葉の響きやイメージを考えながら、大切な言葉をひとつ、書作品にするというワークショップです。

〈内容〉
はじまりは、言葉の美しい響きや意味について考えるところから。奥田さんが淹れてくださった珈琲が香る空間で、いつも言葉を扱っているライターが少しお話をさせていただきます。その後、それぞれが美しいと感じた好きな言葉を書くという流れです。

書きたい文字は、あらかじめ考えておいても、当日、一緒に見つけても。色紙に仕上げてお持ち帰りいただきます。
心に残る言葉をとっておきの作品にしてみませんか?

※写真は奥田さんの作品。ワークショップで作成するものとは異なります

 

日時 2020年3月14日(土)17時~19時、3月15日(日)14時~16時
所要時間 2時間程度
各日 定員5名
費用 4000円(材料代込み・飲み物付き。税込み)
会場 店と催し 雨露(京都市左京区聖護院山王町18 メタボ岡崎106 文と編集の杜内)
アクセス 市バス「熊野神社前」より徒歩5分 ※場所が少し分かりづらいですのでこちらをご覧ください。
お申込み bhnomori@gmail.com/℡075(354)5373 担当 瓜生(うりう)

メールの場合は、
・お名前
・年齢
・連絡のつくお電話番号
・メールアドレス
・ご住所
を明記の上、ご連絡ください。
※「店と催し 雨露」オープンプレイベントです。 協力 市野亜由美さん

■プロフィール 書家・奥田美穂さん https://kazenotayorimi.wixsite.com/miho-okuda
「ペンと珈琲」主宰。9歳より字を習いはじめ、現在は、暮らしのかたわらで季節のうつろいや自然の風景に自身を響かせて作品を表現。書くことと美味しい珈琲に深く関心を寄せ、日々「書くこと」と「珈琲を淹れること」の実践を続ける。

「主催する教室やワークショップでは、字の上達にとどまらず書くことの楽しさや大切さを見つけられるように心がけています」

関連イベント 書家・奥田美穂さん個展 「巡る」

ワークショップにご登場いただく奥田美穂さんの作品を「店と催し 雨露」に展示します。テーマは「巡る」。

3月20日(金)・21日(土)・22日(日)13:00~18:00頃

会場「店と催し 雨露」