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日々のできごとやお知らせ

ニューヨークの空気。一生懸命歩かなければ、望む場所へ行くことはできない。

ニューヨーク滞在も後半に突入し、ジャズ、ゴスペルの次はブロードウェイミュージカル。ブロードウェイってのはBroadway、つまり通りの名前。マンハッタンはそれぞれの通りに名前があり(これは西洋のほかの都市でも同じ)、タテ・ヨコまっすぐに道が通っている。「57丁目の通り(これは東西=ヨコ)の7thAve.と6thAve.(これらは南北=タテ)の間」で場所が特定できるのは京都と同じ方式だ。ちなみに、これだとカーネギーホールがあるところをさす。
ところがBroadwayはそんな街を南北に、斜めに突っ切っている不思議な通り。タイムズスクエアのあたりで、同じく南北の通りである7thAve.と交わっていて、このあたりを歩けば劇場に当たるって具合に、あっちもこっちも劇場だらけ。劇場は月曜日がだいたい休みで、そのほかは毎日上演している。おおむねどこも夜8時始まりの10時30分終わりで、終演時間になると、劇場からわっと人があふれ出てきて、それでなくても人だらけのタイムズスクエア周辺は大混雑。そしてみんな地下鉄の駅に吸い込まれていく。

さて、金曜日の夜。
ニューアムステルダムシアターの前に並んでいるのはカップルや小さな子どもを連れた家族。「アラジン」を見に来るのだから、そんなハッピーな人たちでいっぱいなのは当たり前。そこに紛れて40過ぎの女が一人……。子ども並みにワクワクしながら列に並び、入口で「何人ですか?」って聞かれても、めげずに「私だけよ」って答えて劇場へ。中に入れば、外にいるときは想像もしていなかった内装装飾の美しさに目をキョロキョロ。本当に子どものよう。お恥ずかしい。
さて、私実は、英語がほとんど話せない。「トイレはどこですか?」が聞けるレベル。それなのにミュージカル?分かんないのに? でもまわりを見回すと小さい子どもがちらほら。子どもが見るミュージカルなのだ。中学生レベルの英語でも、耳をかっぽじって、集中して、頑張ろうじゃないか(でなければ日本の英語教育は本当に問題だ)。それにミュージカルはオーバーアクションで、滑舌もいい。ライブの合間のMCを聞きとるよりもずっと簡単なハズ。もしそれでも自信がなければ、あらかじめあらすじをチェックしておくといい。英語が分からないばっかりに、物語の中で迷子にならずにすむ(歌舞伎や能もそうしていくと分かりやすいとか)。

とはいえ、なんといってもここは本場。英語が分からなくても見る価値は十分にある。席は1階席(オーケストラ)のやや後方。全体が見渡せるなかなか良い場所。
幕が上がってしばらくして、ランプの精・ジーニー役のJames Monroe Iglehartが出てくると空気が彼一色に。彼はこの作品で2014年のトニー賞助演男優賞も獲得しているほどの名パフォーマンス。大きな体で歌って、躍って。そして人を笑わせる。本当に天才、まったく目が離せない。間も絶妙。何年もやってるし、うまくいくにきまっているのだが、彼がひと言「spotlight!」といって、即座にポンとライトが照らしたときなんか、本当に魔法のようだった。そんな細かな部分にも、ぐいぐい引き込まれていく。もちろんアラジンもジャスミン姫も素敵。ふたりが恋に落ちるシーンなど、わかっているけど、ガラにもなく心がきゅんとなったりして。そこはミュージカル、歌の力。空飛ぶじゅうたんに乗って壮大なバラードをデュエットしてるときなんか、もう夢中。このじゅうたんに乗っているときに、照明が微妙に暗いのがいい。月明かりに照らされてふたりで空を舞う。あぁロマンティック!

続いて土曜日の夜は「キンキーブーツ」。
これは2013年にトニー賞を6部門で受賞した怪物作品で、音楽はシンディローパー。この日の席はオーケストラの2列目。しかも中央。真ん前!!!!
この物語は、アラジンと違って大人向け。イギリス田舎町の靴工場を継ぐことになった若者が、倒産寸前の工場を救うべく、ドラァグクイーン(drag queen)がはく、きらびやかでセクシーなキンキーブーツを作り、ミラノの見本市に出展するというお話。ドラァグクイーンというのは、女装をした男性。ショー的な派手な格好をしているゲイの方たちらしい。
そのドラァグクイーンたちが登場してくるシーンは圧巻。化粧も衣装も派手な大女(みんな男性の俳優さん)が、前列2列目の私にむかってずんずん突き進んでくる! アラジンは引きこまれる感じだったが、こっちは圧倒的なパワーで押し寄せられる。そのダンスと歌が見事なのは言うまでもない。一見して男と分かるきれいな大女たちがダイナミックに、ものすごい高さのピンヒール(この靴がどれもカワイイし、こまめに衣裳に合わせて履き替えてた)をはいてパワフルに、キレキレで踊りまくる。ほんと、いろんな意味で、初めて見る世界。

靴工場の再生、ドラァグクイーンたちへの偏見、工場を継いだ若者チャールズの葛藤、ドラァグクイーン・ローラの思い(涙を流すシーンまであった!)…。と物語もしっかりとしていて、それにあう曲がその都度熱唱されて(もう1回言うが、シンディローパー作)、本当にカッコいい、大人のミュージカル。これはあらすじを予習していっておいて正解。でも私の耳でも少し聞き取れる英語があった。「change the world, change your mind」(正確にはちょっと違うかも)。世界を変えるには、あなたの心を変えなくちゃ。

アラジンもキンキーブーツもこの舞台に立っているのは、何百人といる俳優から選ばれた人たち。歌も、ダンスもものすごい努力を重ねてきた結果、つかみ取ったこの舞台のこの役。
特にキンキーブーツはステージに近く、瞳の色まではっきり分かる位置。当たり前かもしれないけど主役から脇役まで全員が真剣だった。目線、指先、髪の毛の一本まで、衣裳をひらりと払うその先まで、ビシッと熱が入っている。手を抜くところなんてこれぽっちもない。魅せることに全力疾走だ。その熱が劇場内を満たす。そのパフォーマンスにいい大人が子どものように目を輝かせて、「ありがとう!最高だった!」の気持ちを込めた割れんばかりの拍手。演者と観客、お互いの熱量たるやものすごい。

ニューヨークにはたくさんのミュージシャン、俳優、アーティストが憧れ、目指してくる。それを自由という大きな懐で受け止めている。だが、ここまではたどり着くかもしれないけれど、そしてここにもたくさんの道があるけれど、自分が行きたい場所へ行くには、必死で歩いて道を選び、なければ作るしかない。誰も歩き方は教えてくれない。ここは自由の街だから、それぞれのフィールドを自分の力で歩く。でないと、この街へ来ただけで、道は終わってしまうのだ。厳しいけれど、なんだかすがすがしい。私もこの空気をいっぱい吸って、日本へ帰ろう。

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